考の証

要は健忘録

【積読日記】中東政治入門

 本著は買ってからすぐに読み終わった一方、読み終わってからこの感想を書くまで1ヶ月以上掛かっている。積読とは一体何であったのか……。

 さて、内容に入る前にまずは「中東政治入門」を読もうと思った切っ掛けから話したいと思う。ちょうど夏頃にアメリカがアフガニスタンから撤退するニュースが流れているころにTwitterで「カイロ大学」の感想を見て面白そうだったのでこの本をKindleで購入、読んでいた。

 その中身というのも、中東問題を解決したいという熱意を持った著者がどのようにカイロ大学に入学したのか、また入学してからどのような大学生活を送ったのか、そしてカイロ大学とはどういう大学であったのか、などの内容がユーモラスに描かれていた。私は多分生きていけない世界であったと思う。この本の一つのテーマがカイロ大学の精神であるが、それはざっくり言うと「エジプト人がどのようなアイデンティティを持つべきか」というものであった。エジプトはオスマン帝国からの独立、その後のイギリスへの従属を経ており、自分達が何者であるかという規範が揺らいでいた。そのために自身のアイデンティティを問い直すというのは非常に重要な題目であった。そしてカイロ大学で行われたその議論の結果生まれた思想信条は中東諸国へ広がっていったと述べられている。


 この本を読み、中東についてもう少し踏み込んで学びたいと思った私は本屋へ行き、中東関連の書籍が置いてある本棚で1時間程度何を買うべきか迷った。いろいろな本を手に取り中身を読んでも社会学政治学を学んだことのない素人の私にとって難しく、結局何も買えずに帰ってしまった。そうして家に着いた私はAmazonで中東に関する書籍を眺めていると、丁度よさそうな本を見つけた。それが今回感想を書いている「中東政治入門」だ。

 本著は報道などで知る中東での出来事がなぜ起こるのか、その原因について国家、独裁、紛争、石油、宗教といった5つの観点を地域研究と社会科学を組み合わせて紐解いている。過去、中東は欧米にとって自分達の理論が通じない「例外」として扱われがちであった。その理由として宗教のイスラム教が挙げられているが、本著では中東は決して政治学の例外などではなく、世界各地で起こる事象は中東でも起こる一方、中東で起こる事象は世界各地でも起こるという普遍さがあることを述べている。
 本著で重要で何度も登場するのが「国の正統性」である。そもそも中東という呼び名は欧州からの呼称であり、彼ら自身がそう自称していたわけではない。それでは中東諸国とは何を指すのかといった場合、それは定義にもよるが、大体は元々オスマン帝国が支配していた領地に建国された国々を指すことが多い。そして、この国々はオスマン帝国が崩壊した際に欧州に植民地化された人工性の強い国々でもある。そのため、その国々の支配者は自身が国を支配するための正統性を作り出す必要があり、それが権威主義体制へと繋がっている。こういった過去の歴史を踏まえ、本著ではそれぞれの観点を紐解き、なぜ中東が今の政治体制となっており、そしてなぜ紛争が起こっているのかを分かりやすく解説している。近年の出来事で言えば「アラブの春」の民主化運動がなぜ起こったのか、各国での結末がなぜ違っていたのか、そしてその運動がなぜ他の国々に波及していなかったのかについて解説されており、中東で起こっていることを理解すると同時にこの問題が根深く、解決が非常に難しいことが理解できる。また、中東諸国の独裁者がなぜ社会主義体制を敷いたのかについても解説されており、ソ連があった時代をほぼ知らない私にとっては東西冷戦がここにも繋がってくるのかと正直驚いたところもある。


 本著を読むことで、私の中での中東のイメージも大きく変化した。読むまでは漠然としたイスラム教のイメージだけが浮かび、報道などを見ても情報として飲み込むだけで咀嚼などできず、どこか私たちとは異なる世界であると正直感じていたところがあった。その一方、読んでからはこれまであった偏見などに左右されず、中東も同じ価値観で動く世界で有り、そこで起こることを少し理解できるようになったと感じている。本著は後書きにもある通り、中東政治の研究の入門書として書かれていることから素人が手に取っても理解しやすく非常に学ぶものが多い一冊であると思う。ただ、私が理解できたのは本著を読む前にカイロ大学を読んで中東やイスラムに対して漠然とした理解ができていたからかもしれないので、興味を持った方はまずはカイロ大学を読んでから本著を読んでいただくと「あ、カイロ大学で見たところだ!」という進研ゼミの気分を味わいながら楽しんで読むことができると思うのでオススメする。