考の証

要は健忘録

【積読日記】2001年宇宙の旅

 最近、週刊少年ジャンプの物語の展開スピードは伊達じゃない。これまでの漫画であったのような展開の速度でも「これ、遅くない?」みたいな感想を抱いてしまう。その象徴が昨年から連載されたアンデッドアンラックである。打ち切り漫画は連載終了したと同時に最後の設定大解放によって読者に「面白いのに終わっちゃうのか」という感想を抱かせるが、アンデッドアンラックは常にその設定大解放をし続けており、最大速度で常に最高の面白さを提供している。


 さて、そんな話を冒頭でしたのは理由がある。今回読んだ「2001年宇宙の旅」はそれと真逆の作品だからである。

 この作品は1968年に出版されたものであるが、これは元々映画と同時並行で作成されていた小説である。物語は人類が月でモノリスを発見したことから地球外知的生命体がいることを知り、その痕跡のある土星の衛星ヤペタス(イアペトゥス)を目指すというものである。ヤペタスを目指す宇宙船にはHAL9000と呼ばれるAIを搭載したコンピュータがいたり、木星の重力を利用したスイングバイを活用した宇宙航行が描かれている。

 この作品はかなり物語がゆっくり進行しており、大きな変化が起こるまでに200ページ程度読まなければならない。そういった意味で、冒頭で述べたようなジャンプを読んでいる身として物語のスピードが遅すぎて退屈さを感じてしまったことは否めない。そもそもジャンプのスピード感自体がおかしく、ガラパゴスを形成しているのであるが、これに慣れ親しんでいたのが悪いと言えるだろう。

 一方で、この作品の醍醐味はスピードや展開の意外さなどではない。重要なのは、この作品が「1968年までに執筆された」ということである。今から53年前である1968年は日本では学生闘争が起こっていたり、アメリカではアポロ8号が月へ行っていた頃である。その頃にこの作品が描かれたということに価値があるということは、おそらくこの本や映画を見た方には理解して頂けるのではないだろうか。まだ人類が月へ足を付けた頃、いかにリアルな宇宙の旅を描くかという壮大な課題へ挑んだのが本作である。実際、物語が動き始めるまでの間では地球から月への移動や木星を介した宇宙航行が克明に描かれている。まだ2021年現在で人類は気軽に宇宙旅行を行ったり、月面基地を建設できてはいないが、これらの描写には大きな間違いはない。また惑星の重力を利用したスイングバイによる宇宙航行は惑星探査機であるボイジャー1号と2号が実際に行ったものである。1968年当時でこの作品に出会っていたならば、今の宇宙開発に対して非常に感慨深いものがあるだろう。またそういったリアルな宇宙の旅を描きつつ、最後の展開は空想や夢を託したSFあることから、本作がSFの代表作として挙げられるのは異論ないだろう。

 2021年から30~40年後の世界はどうなっているだろうか。人類は月面基地を築いているのか。火星へ人類は辿り着けているだろうか。エンケラドゥスエウロパに生命がいるだろうか。そもそも宇宙への進出が続いているかも分からず、もしかしたら虐殺器官からハーモニーへとつながるディストピアの方が今のリアリティに溢れているかもしれない。