考の証

要は健忘録

映画「TENET」の感想

 先週日曜、巷で話題のTENETを見に行った。なんだか面白そうな雰囲気は感じ取れていたので、これまで頑張って感想ツイートなどは避けて前情報ゼロを貫くことができた。映画が始まってからこの作品がクリストファー・ノーラン監督の物であると知り、ちょっと身構えたのは事実である。

 見た最初の感想はこれである。

 本作品の時間軸や設定に関する考察は既に公開からだいぶ経っているので詳細は先人に任せる。ここでは何で難しく思ったのかという感想を綴っていきたい。

 まず、TENETでは登場人物の名前を呼ぶことが非常に少ない。見終わった後に「セイター(結構最初から出ていた悪役の名前)ってあいつであってたか?」とか「そもそも主人公の名前なんだっけ・・・?」と悩んでいた
が、これは今作がいわゆる神視点から描かれておらず、徹頭徹尾主人公視点でしか描かれておらいない。観客は作品の始まりから主人公と同じだけの情報を得てTENETの世界について知っていくように作られていて、その主人公目線で観客が没入できるように作られていたと思う。実際、主人公の名前は一度も劇中では呼ばれておらず、その違和感をなくすために登場人物の名前を呼ぶこと自体を少なくしていたと思われる。この名前呼びの少なさが登場人物の関係性の把握を困難にさせており、それが物語の理解を難しくした一因であろう。

 次に、TENETは未来から送られてきた兵器を中心に、世界を滅ぼそうとする現代人の勢力とそれを阻止する近未来人の勢力が出てくるいわゆるタイムトラベル系のSF映画である。ただこれまでの映画と異なるのは、時間旅行が一瞬で終わるのではなく、普通に生きている時間の流れる順行世界に対して、逆の時間が流れる逆行世界が同時に存在している。そのため、5年前に行くためには5年間逆行にそのまま滞在しないといけない設定となっているが、これにより特定の事象に対して順行時間と逆行時間の両方から攻め立てる「挟撃作戦」が可能となっている。こういった順行時間と逆行時間の両方の視点から特定の事象を描いているため、「今どちらの世界で何が起こっているのか」といったことを考えるのが慣れないと難しいと思われる。


 この2点が理解を難しくした原因であると個人的に思っている。特に前者の「物語の目的は何か」「今主人公は何を思って何をしているのか」と行った情報がその場では得られずに最後にならないと回収できない、また主人公自体が何もわからずに戦っているため混乱を助長させている点は否めない。というかむしろそちらが主因であり、後者は特に関係なさそうであるとも思っている。実際、私もセイターの名前と作中人物がイコールで結ばれなかったり、人妻子持ちヒロインのことを「キャット!」と読んでいるのが名前だと認識できていなかったりしていたが、時系列に関してはちゃんと考えれば答えが得られたものであった。ちなみに他の人の感想など見ていると「2回目の方が楽しめる」というものがちょくちょく見られるが、この物語では開幕から逆行世界の介入(当然初見ではそれが何かを理解できない)があったり色々伏線が張られているのでその通りだなと思う一方、個人的には2回目を見に行くほどでもないかなと思ってしまった。


 一方で本作は映像が凄まじい。先に説明した通り、順行時間の世界から逆行時間にいる人間が出てきたり、その逆もあったりするのだが、「これどうやって撮影したの?」となるようなシーンが盛り盛り出てくる。格闘戦、カーチェイス、銃撃戦。どれも素晴らしい出来であるのは間違いなく、摩訶不思議な映像体験をしたい人はぜひとも劇場に足を運んで良いと思うほどの出来であったと思う。