考の証

要は健忘録

タイムパラドクスゴーストライターとは何だったのか ~過去編~

 こんにちは。前回の記事でタイパラについて十二分に吐き出して満足した*1と思った翌日から再びタイパラについて考え出してしまった悲しい存在が私です。

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 さて、今回の記事はタイムパラドクスゴーストライターを読む上で作者の過去作を読むことで理解度がぐ~んと上がることが分かりましたので早速筆を執っている次第です。今回参照するのは以下の2作品です。ちなみにこの記事を読むときにはできればぼくらのQの1巻だけでも読んでいただけると私と同じ様な衝撃を得られると思うので、時間とお金が余っている方はぜひお願いいたします。

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 この2作品にはタイパラの原型となる要素がふんだんに盛り込まれており、特にぼくらのQを読むとタイパラがなぜあのような構成だったのかを理解するのに非常に役立ちます。今回はこの2作品を通してタイムパラドクスゴーストライターがどういう物語であったのかを解き明かしていきたいと思います。


 ぼくらのQは2017年から裏サンデーで連載された全4巻からなる作品です。この作品の主人公はある日、質問を出す球体、Qに憑りつかれてしまいますが、作中で出てくる主要人物もまたQに憑りつかれています。それぞれの質問の出題テーマは異なっており、「生命のQ」「死のQ」「正義のQ」「自我のQ」の4つの球体が出てきます。この球体の出す答えに『大正解』すると憑りつかれた人間にそれぞれのQに関連した力が与えられます。「生命のQ」には再生の力、「死のQ」には風化の力、「正義のQ」にはベクトル操作の力*2、「自我のQ」には自我を奪う力が与えられます。また質問に答えるごとにその力は強化され、最後の質問*3に答えることが出来るとチートと言える力が手に入ります。物語は生命のQを持つ主人公が正義のQを持つ女刑事とタッグを組んで死のQを持つ連続殺人犯とその仲間である自我のQを持つ者と戦うというものになっています。
 ここまで読んでみなさんは「タイパラに似ているところある?」と思われるかと思いますが、これは主人公サイドの視点の物語であるからです。ぼくらのQにはもう一つの視点、世界自体に芽生えた自我と呼べる超越的な存在が出てきます。この超越存在は女性の容姿をしていますので仮に【彼女】としますが、【彼女】は自らが生まれた理由を知るための手段として地球を幾度も創造してシミュレートをしてきました*4。そのシミュレートのアクセントとして、【彼女】はQを生み出して地球へ送り込み、第1問を答えた者に自らの生まれた意味、第0問を出します。ぼくらのQとは、主人公を初めとする球体に憑りつかれた人々がQを解き明かす物語であると同時に、Qを生み出した【彼女】が答えを見つける物語でもあります。

 これがぼくらのQの物語の概要です。これからはこの漫画におけるキャラやストーリーの関係について考えます。主人公は普通の高校生*5ですが、過去に幼馴染の女の子に命を救われています。この幼馴染の女の子が主人公サイドの物語におけるヒロインですが、Qのアレコレにも関与しないので物語の最初と最後にしかでてきません。そういう意味では超越存在である【彼女】は主人公から第0問の回答を得て未来へ歩み始めますので、Qに関するストーリー上のヒロインは【彼女】と言えるかもしれません。また、ストーリー自体はQを持つ4人がそれぞれ敵対して戦っていく話であり、その中で彼らはそれぞれのQの根源に気付いていくという縦軸があります。これらのことから、以下の様に物語は整理できます。

①主人公サイドの物語では幼馴染がヒロインである。
②Qサイドの物語では超越存在である【彼女】がヒロインである。
③それぞれの物語をくっつける舞台として、Qを持つ4人の戦いが存在する。

 さて、それでは次の試作神話に入りましょう。試作神話は2019年にジャンプ+(ジャンプルーキー?)で掲載された読切作品です。寝癖が個性的な主人公は学校で奇行で有名ではあるものの学業スポーツ万能の美少女である榎本卯月が気になっています。大方の人たちはあまりの奇行ぶりに榎本さんから距離を置きたがっていますが、周りの目を気にせず自分のしたいことを貫く榎本さんに主人公は憧れており、彼女と友達になるために屋上で一人でいるときに話しかけようとすると「アンゴリグリンゴ~」と空に叫んでいるところを目撃します。何をしているのか聞くと先ほどの呪文は「改変後の世界において自分の記憶を引き継ぐコマンド」であり、
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ということから、この世界にも飽きたので次の世界へ向かおうとしているようです*6。その後主人公はせっかく近づけた榎本さんの機嫌を損ねてしまったがために世界改変に巻き込まれていきますが、先ほどの呪文である「アンゴリグリンゴ~」と空に叫んでいたので記憶を引き継いでおり、あらゆる世界線で榎本さんに会いに行きます。田中は死にます。しかし、榎本さんに会いに行く頃には彼女は世界に飽きてしまったのでボツにして次の世界線へ行ってしまうのですが、主人公は懲りずに何度も会いに行きます。田中は何度も死にます。最後に主人公は榎本さんに元の退屈な世界でも毎日好きな人(榎本さん)に学校で会えるだけで幸せなんだという告白をして元の世界に戻ります。この物語は以下の様に整理できます。

①主人公は平凡な男子高校生であり、ヒロインは同じ学校に通う超越存在である。
②物語は主人公とヒロインの関係性で描かれており、特に別れていない。

 みなさんは既にお分りになったのではないでしょうか。そう、試作神話でも世界へのアクセス権限を有する超越的な存在が出てきており、その存在がヒロインでもあります。この作品ではぼくらのQでヒロインの影があまりに薄かったことから、(元からヒロイン味はありましたが)超越存在そのものをヒロインに据えて物語が展開してきたのではないかと考えられます。またこの二作品を通してみると、平凡な主人公が非日常的な存在と遭遇した後にそれを生み出した超越存在と出会って理解し合う・和解する・仲良くなるといった要素が見えてきます。

 ここまでの話を考慮してタイムパラドクスゴーストライターを眺めてみると以下の符号が見えてきます。

①キャラの立ち位置
 主人公  ⇒ 平凡である佐々木君*7
 超越存在 ⇒ フューチャー君
 ヒロイン ⇒ 藍野伊月
②物語
 主人公である佐々木君が非日常的な事態に巻き込まれて超越存在と出会い、理解してヒロインを共に救いに行く

 どうでしょうか。これまでの2作品に共通する要素が見えてきました。その一方で共通しない項目として、タイパラでは超越存在とヒロインは決定的に分かれており、同一存在、もしくはそれに近しい存在としても描かれていません。このことからどちらと言えば、試作神話では超越存在をヒロインに寄せに行きましたが、今回はヒロインを単独で活かす形で物語を描こうとしてことが分かります。

 さて、ここからは私の想像になりますが、タイムパラドクスゴーストライターではこれまでの物語での等号である「超越存在=ヒロイン」という図式が成り立たないことから、「超越存在=主人公」という形で物語を展開していきたかったのではないでしょうか。
 前回の記事でも解説したように、10話に出てきたジャンプ妖怪おじさんがあまりに異彩を放っていたことをみなさん覚えていると思いますが、このおじさんはフューチャー君を除いて作中で唯一藍野伊月を「伊月ちゃん」と呼んだキャラであることから、「フューチャー君(超越存在)=ジャンプ妖怪おじさん」の図式が成り立ちます。一方でこのおじさんは藍野伊月の「世界中のみんなを楽しませる漫画を描く!」という宣言を受けた後に「私も伊月ちゃんと同じ様に新しい道を歩むことにしました」という書置きを残して”どこか”へ去っています。これらを考えると、ジャンプ妖怪おじさんは「全人類を楽しませる漫画を描くために”どこか”へ去っていった」と読めること、そしてこのおじさんは超越存在であるフューチャー君であるとも想定されることから、ジャンプ妖怪おじさんは何らかの手段を使って人生のやり直しを図り、その結果が佐々木君なのではないでしょうか。その証拠にこのおじさんの顔、佐々木君に似てますよね?
 そう、この仮説が成り立つのであれば「フューチャー君(超越存在)」は「ジャンプ妖怪おじさん」であり、また「佐々木君」でもあるということになります。またこれまでの二つの作品でそれぞれ「超越存在」のキャラの位置づけが変わっていることからも、今回は新しい取り組みとしての「超越存在=主人公」という物語を描きたかったのではないでしょうか。

 この仮説、結構個人的には有力ではないかと考えていますが、「だったらどういう物語にする予定だったの?」という答えはまだ見つけられそうにありません。それは未来編として次回のネタに取っておきましょう。それでは今回はこれにて終わります。

⇒to be continued...
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*1:当然全ての要素について言及することはできていません。枝葉末節、骨までしゃぶり尽そうとすればおそらく2倍くらいの文量になったことでしょう。それほどタイムパラドクスゴーストライターは読み尽せるんです。多分、2巻が出たらまた話してるんじゃないですかね…。

*2:なぜ正義がベクトルになるのか、と不思議がると思います。正義とは「人の信念」というスカラー量が「特定の対象に向く」ことからベクトル操作に繋がります。作中では人の正義以外にも雪が降る、地球は回るといった世界に流れる様々な力にそれぞれの正義が宿るという回答が得られます。こういう捻りを加えた表現って私は好きです。

*3:最初の質問は「第【4桁】問、~~~」と大きな数字から始まり、最後の質問となる第四問目は「第1問、何故人は生きる?」といった生命、死、正義、自我がなぜそのように存在するのかといった根源に近いものとなる。そのためQが進むごとに難易度は高くなっていくが、そこに比例して能力も強くなっていきます。ちなみに主人公は最初の方で第三問をクリアして能力的な伸び幅は小さくなりますがその再生力を活かす方向で物語は進みます。

*4:某作品の人力スーパーコンピュータを思い出しますが、そういう訳ではないです。

*5:多分高校生です。結構細かいセリフとか描写を見落とす自信があるので言い切れないんですけど、主人公が通う学校も学校としか表記されていないので…。

*6:みなさんも”分かり”ましたか?

*7:能力値としては平凡かもしれないが、徹夜を繰り返したりキャベツやカップ麺で生活しても体を壊さなかったり、ホワイトナイト連載という重責に潰れないメンタルを持つという意味では平凡と呼べない。