考の証

要は健忘録

【積読9冊目】宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

 今年の4月、「IUT理論」がアクセプトされたというニュースを見た。大学生の頃にこの理論の話を見て、なんだか難解な話だなと思っていたことを覚えている。「かけ算とたし算の概念を切り離す」といった理論であると漠然と聞いたことがある程度であったが、ニュースがあったこともあり一度ちゃんと調べてみようかと思った矢先、本書に出会った。

 本書はIUT理論提唱者である望月教授と私的にも交流のある加藤文元氏によって、「一般人向け」に書かれた本である。IUT理論はそれ自体が600ページに渡る論文であり、更にそれを理解するには望月教授がしてきた1000ページの研究論文を読む必要があると言われており、微分積分線形代数で数学を挫折した自分にはとてもではないが読み解くことはできない。そういった意味で本書はまさに蜘蛛の糸と言えるだろう。

 それにしてもIUT理論は発表当初、望月教授があまり論文発表に対して積極的ではないという話を聞いていた記憶がある。その辺りの経緯も本書ではまとめられているが、上述の通りに論文そのものが600ページ、それを理解するための論文が1000ページ。更に加えてIUT理論自体が既存の数学の概念を覆すようなものであるため、学会発表などでエッセンスのみを話すと数学の理論的な話ではなく、哲学的な概念の話しかできないため、この理論をみなに認めてもらうためには草の根的にやっていくしかなかった、というのも納得のいく話である。実際、「かけ算」と「たし算」の概念を切り離すというのが未だにどのようなものなのかよく分かっていない。

 ちなみにIUT理論は「宇宙際タイヒミュラーInter-university Teichmüller)理論」を略した言葉である。ここでいう「宇宙」とは数学体系のことを指しており、「際」というのはこれらの異なる数学体系に接したところ、タイヒミュラーは数学的な用語でイマイチ簡単な説明が思いつかないが、この異なる数学体系を繋げる理論のことを指しているとすればいいのでしょうか。間違ってたら申し訳ない。今まで私たちが親しんでいた数学というのは、「かけ算」と「たし算」はどちらも決して切り離せない硬い関係、正則構造を有しており、この正則構造を壊して云々というのがタイヒミュラー理論と関連しているが、やはりいまいちピンとは来ない。というのも、本書では「かけ算」と「たし算」を切り離すという言葉は出てきても、それぞれの数学体系に関する説明がないからだ。おそらく、この話をするには恐ろしい程専門的な知識が必要なのだろうとは思う。ただこの異なる世界を行き来できる抽象的な情報である「対称性」を駆使して、異なる数学体系で計算を行うことがIUT理論に肝らしい。素人が一回読んだだけで考えをまとめようとすると、全く伝わらない気しかしないが、本書はIUT理論の理論体系を学ぶというより、何をやりたいのかを学ぶというものであるので、この辺りで容赦願いたい。

 それにしても本書を読んでいて面白いなと思ったのは、IUT理論を理解するために他の数学の概念を説明しているところである。特に「群論」に関してはIUT理論にかなり関連があるおかげか、本当にわかりやすく書かれていていた。大学で数学を習うとき、これは線形代数であったが、「公理、定理さえ理解できれば計算はできる」という教員に習ったせいか、今でも苦手意識のある概念である。ちなみにこの授業を受けていたクラスでは、先生の授業を聞くよりも参考書を解いた方が分かりやすいと共通認識を持っていた。単位は無事取ったが、名前も顔も覚えていないあの教員についてはちょっとむかついている。他の授業で習って今でも覚えているキーワードは複素解析の留数定理だとか、電磁気学で出てきたダイバージェントとかなのだが、結局どういう理論であるのかといった詳細は全く覚えていない。一方で本書では具体例をまず示し、徐々に抽象化して数学の概念を示しており、大変わかりやすい構成となっていた。これは自分の中での発見ではあるが、理論や理屈を聞くよりも、なぜその数式が求められたのかというストーリーから入った方が理解度が深まると分かった。大学の教養講義で「科学史」なるものを4単位ほど取ったが、数学でも「数学史」のように古代ギリシャの頃からどのように数学が発展していったのかを学べば今のような強い苦手意識を持たずに済んだのかもしれない。そのようなセミナーがあればぜひ受けてみたいと思うが、実際のところは広く浅く知識が求められるようなものになるし、最前線の研究者にとっては魅力的なテーマでもないのだろうから、あまり期待はできないかもしれない。ここまで書いて、よく高校の文理選択で理系を取ったなと思う。実際、大学入試での数学は散々であったが、他の科目でカバーできていなので事故は起きていないし、専攻も化学なので問題はなかった。統計はちゃんと勉強しておくべきだったと今でも思っており、たまに教科書を眺めているが。

 久し振りのブログ更新ということで、長文の書き方を忘れてしまっていたり、ちょうど放送されていたゴジラを見ていたり、そもそもIUT理論が難しかったりとしたせいで散らかった文章になってしまったが、本書は「数学なにそれおいしいの?」という人でも分かりやすく解説されている良書であるので、ぼんやりどういう理論なのか知りたいという人はぜひ手に取ってみてほしい。

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃