考の証

要は健忘録

【積読4冊目】バッタを倒しにアフリカへ

 休日、今日は外に車で買い物に行ったのに本を2冊読めた。普段自分がどれだけ無駄な(?)時間を過ごしているかが分かる。子供の頃は本を読むのに時間がかかっていたが、今では普通の小説であれば3時間程度で読めるようになったのはやはり経験値がモノをいうのだろうか。自分の専門分野ではない本を読むときは三行読んで五行戻ることもあるので、そう思うと流し読みしているだけな気もする。

 本日2冊目の本は前野ウルド浩太郎氏の「バッタを倒しにアフリカへ」である。確かこの本を知ったのはTwitterだった気がする。なんでも、バッタが好きで触れ合いすぎたらバッタアレルギーになったバッタ研究者がいるらしく、そんな人が書いた本があると。実際、読んでみるとマイナー分野でPh.Dを取った人がその分野で飯を食っていくために定職を得るまでの話であった。地味に笑ったのは、てっきりアフリカでサバクトビバッタの研究をしてからアレルギーになったかと思っていたら日本の大学院時代には既にバッタアレルギー持ちになっていたところである。端折られているだけで、この人日本にいるころから相当バッタと触れ合っていたのだろうか。そもそも虫アレルギーってなんなんだ・・・?そんな疑問もつい出てきてしまう。

 本書の内容は上記にある通りだが、バッタ研究のフィールドワークという誰もやっていないような分野を、しかも日本から遠く離れたモーリタニアというアフリカの国に一人単身で渡り、ポスドクの任期も終わり無収入のまま、時には干ばつに見舞われてバッタがいないといった事態に巻き込まれながらも、その日々を著者の底抜けポジティブな語り口で書かれた本である。意外に思ったのはサバクトビバッタの研究は、今年ニュースに大きく取り上げられていたが、フィールドワークでの研究が行われておらず、蝗害対策も殺虫剤による対症療法的なものであったことだ。確かに、映像で見ると一面バッタだらけで空も埋め尽くす群れを見ると結局のところ殺虫剤で対処するのが一番コストパフォーマンスが良いのだろう。本にある通り、これは数年に一度程度起きるもので毎年起きるものではないこともそういった現状維持をしている原因であるのかもしれない。
 そんな真面目な感想もあるが、本書の面白いところはバッタの研究以外にも普段のモーリタニアの生活などの失敗談等も混みに赤裸々に語っているところだろう。きっと、この本には面白おかしく書かれているが、その当時は本当に大変であっただろうし、たくさん悩んでいたと思う。実際、ポスドクの任期が切れて無職のままやりたい研究を続けるか、日本に戻ってバッタ以外の研究を行うかを悩んでいるところは非常に辛かったんだろうと思う。このときに著者が世話になっていた研究所のババ所長の「つらいときは自分よりも恵まれたものたちを見るな。みじめな思いをするだけだ。(中略)嫉妬は人を狂わす。(P.264)」というのは真理だと思う。このババ所長は子供の頃に死にかけた経験をした後に、これから先の人生はないものだと思い人のために働きたいと親の反対を押し切って勉学に励み、サバクトビバッタの研究所に入って蝗害と戦う人なのだが、めちゃくちゃに人が好さそうなのが伝わってくる。やはり現場で働く人には頭が上がらない。
 個人的に好きなエピソードはモーリタニアへ行った年に干ばつによってサバクトビバッタが現れなかったときにゴミムシダマシの話である(バッタの本なのに)。おびき寄せるスパゲティを腹いっぱい食べて動けなくなるところも良いが、食べ過ぎて体が膨らんで首-胴体の節が伸びる話やその状態で首を押し込むことで腹の先から生殖器が飛び出して雌雄判別ができる話など、本当の話かと思うくらい面白い。しかもその後ゴミムシダマシで実験をしているとハリネズミに食われてしまい、そのハリネズミを捕まえて監禁という名目で飼ったり、すっかり忘れた頃に再登場するところも良かった。
 そういった研究の他、サバクトビバッタの研究で食べていくために日本での啓蒙活動(?)をしていく中で多くの人と繋がったり、職を得るための面接の話などもあた。特に前者ではやはり一つの夢や目標に向かって全力を尽くしている人には同じように志の高い人たちが集まるのだなと思った。全力で人生を生きている人たちを見ると羨ましく、そういった目標を人生で持ちたいなと思う。またそういった人たちとの話や後者での面接の話の中で思うが、やはり「見ている人は見ている」のだ。だからいくら周りが馬鹿にしていても、誰からも見られていないと思っていても、しっかり仕事を出していればいつか、誰かがそれを必ず見つけてくれて、そして認めてくれるのだなって思う。

 本書では研究そのもの話というよりは、エッセイに近いものかもしれない。バッタや研究のことが分からなくても楽しく読める本で誰にでも勧められると思う。これから日本でもサバクトビバッタの研究が盛んになるといいなぁと思わせる本でした。