考の証

要は健忘録

【積読3冊目】ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在

 久しぶりの更新。休日も少し忙しかったりして落ち着いて過ごす日がなかったが、これからは休日は、というより平日も大分時間を取れるそうだ。それがわかっていたため、積読は減るどころか増える一方で気付けば30冊は余裕で越えていそうだ。だいたい一冊3日かけるとしても90日で読み切れると思えば、そんな積んでいないかもしれない。そもそも積んでいる中には普通の小説もあるため、毎日読書すればもっと早い段階でなくなるかもしれない。

 そんなこんなで、久々の積読消化は「ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在」である。この本は以前本屋に行ってぶらぶら時間をつぶしていた時に目に入って買った本だ。最近は新型コロナウイルスの話題が尽きないが、そういった時事的な要素もあり平積みされていたのかもしれない。

 内容は「ウイルスとは何か」といった話から始まり、ウイルスをどう人類が発見したのかといった始まりから現代までのウイルス学に関して各章ごとに書かれている。こういった本は難解であると思っていたが、読んでみると大学一年生の教科書のようにわかりやすく、ウイルスとは何かを勉強するにはうってつけの本であると思う。というのも、本書はウイルスの発見から現代までの歴史(科学史にならってウイルス学史というのだろうか)を小難しい用語を使わずにまとめている。ウイルスの話と言えば、過去人類は天然痘や牛疫の根絶に成功したということは一般常識としては知らているが、それがなぜできたのか、どういったアプローチで可能としたのかといった話などがまとめてある。

 またウイルスでよく挙がる話といえば「ウイルスとは生命であるのか」というものである。生命の定義といえば自己複製能力を持つことなどが挙げられる(本書では生物学者が提案した定義として「self-reproduction with variations(変異を伴う自己増殖)」を紹介している)が、ウイルスはそれ自体で自己を複製する能力を持たない。必ず他の生命の力を借りる必要がある。私もそういった知識からウイルスは(限りなく生命に近いが)生命ではないと思っていたが、本書を読んでからその認識が大きく変わった。確かにウイルス自身に自己複製能力はないが、彼らは決して装置のような存在ではなく、自然界において重要な地位を持つ生命ではないかと今は考えている。

 そうなると、ウイルスがどのような系譜を持つ生命なのか、非常に気になってしまう。本書による現在の仮説は三つあり、「ウイルスは細胞の出現前より存在していた」、「ウイルスは細胞から逃げ出した遺伝子である」、「ウイルスは細胞が退化したものである」があるそうだ(詳細はぜひ本書を読んでほしい)。一方で、これは別の本ではあるが、ニック・レーン著の「生命、エネルギー、進化」では(うろ覚えで申し訳ないが)エネルギー勾配のある場(アルカリ熱水噴出孔にある微細構造)において細胞の中身ができ、そのあとに細胞膜ができた(ゆえに細菌とアーキア、真核生物は膜構造が異なるにもかかわらずDNAやその転写酵素が共通している)と仮説を打ち立てていた。そうすると、もしかしたらウイルスはそのころから存在していたのではないかと勝手に妄想を膨らませたりできる。このあたり、全然知識がないので勉強しないといけないなと思う。ちなみにこの「生命、エネルギー、進化」は今回紹介している本とは打って変わって専門用語のオンパレードで読むのに時間がかなりかかるが、理解できれば非常に面白い本なので、生命の起源に興味のある人にはぜひ手に取ってほしい本である。

 やはり生物、生命に関する勉強は知的好奇心をくすぐられてしまう。大学の専攻を工学部化学科であったが、理学部化学科にしていればまた違った人生だったかもしれないとふと思う。大学の頃は再生医療に関する研究を行っていたが、非常に難解で勉強量が圧倒的に足りていなかった。こういった本たちに出会えていればより情熱を持ってこういった学問に向き合えていたかもしれないと思うと少しばかり後悔してしまう。過去を悔やんでも仕方ないので、こういった知的好奇心が出ている内に早く次の本を読んでしまおう。